目次
SUS420J2とは:ステンレス鋼の基礎
SUS420J2の材料特性
SUS420J2は、マルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、高い硬度と耐摩耗性を特徴としています。この合金は、主に刃物や工具に使用されることが多く、その特徴的な性質により、耐食性と強度を兼ね備えた素材です。- 化学成分:
- 炭素 (C):0.26〜0.35%
- クロム (Cr):12〜14%
- マンガン (Mn):最大1%
- シリコン (Si):最大1%
- ニッケル (Ni):最大0.75%
- 物理的特性:
- 硬度:高い硬度が特徴で、特に熱処理後はHRC 50〜55の範囲に達することがあります。
- 耐食性:マルテンサイト系の中では耐食性は若干低いですが、クロム含有量によりある程度の耐食性を持っています。
- 靭性:高硬度を得るため、靭性(破壊に対する抵抗力)は低くなる可能性があるため、脆くなることがあります。
ステンレス鋼の種類と特徴
ステンレス鋼は、主に以下のような種類に分類されます:- オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など):
- 特徴:非常に高い耐食性と加工性を持ち、主に食品業界や医療器具などに使用されます。耐食性が非常に優れ、酸性環境下でも安定しています。
- 代表例:SUS304、SUS316など。
- マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2など):
- 特徴:高硬度と耐摩耗性を持ち、刃物や工具に使用されますが、耐食性はやや劣ります。熱処理を施すことでさらに硬度が向上します。
- 代表例:SUS420J2、SUS440Cなど。
- フェライト系ステンレス鋼(SUS430など):
- 特徴:オーステナイト系と比べて耐食性が劣りますが、比較的安価で加工が容易です。主に家庭用の器具や装飾品に使用されます。
- 代表例:SUS430など。
- 双相ステンレス鋼(SUS329J1など):
- 特徴:オーステナイト系とフェライト系の両方の特性を併せ持ち、優れた耐食性と強度を持ちます。耐海水性が求められる環境に適しています。
- 代表例:SUS329J1など。
SUS420J2の加工方法
切削加工の基本
SUS420J2はマルテンサイト系ステンレス鋼であり、高硬度を持つため、切削加工時には特別な注意が必要です。加工硬化が起こりやすく、工具摩耗が激しいため、以下のポイントを考慮する必要があります。- 切削工具は超硬工具(カーバイド工具)やコーティング工具(TiN、TiAlN)を使用
- 切削速度は低め(20〜50m/min)に設定し、工具の寿命を延ばす
- 送り速度は適度に設定し、過度な摩耗を防ぐ
- 切削液は水溶性クーラントを使用し、温度上昇と工具摩耗を抑える
その他の加工方法との比較
研削加工は高精度な仕上げ加工が可能だが、硬度が高いためCBNホイールやダイヤモンドホイールの使用が推奨される。 レーザー切断は熱による切断で精密加工が可能だが、熱影響による変形に注意が必要。 放電加工は電極を使用した非接触加工であり、高硬度材に適しているが、時間がかかる。加工時の温度管理
SUS420J2は熱処理が可能なステンレス鋼のため、加工時の温度管理が重要である。- 高温になりすぎると組織変化が起こり、硬度が低下する可能性がある
- 低温すぎると工具摩耗が激しくなり、加工効率が低下する
- 適切な冷却方法として、切削加工では水溶性クーラントを使用し、研削加工ではオイルベースのクーラントを使用する
- 熱影響を抑える場合は低速加工を実施する
切削条件の設定
切削条件SUS420J2とは
SUS420J2はマルテンサイト系ステンレス鋼であり、高硬度(HRC40程度)を持つため、切削加工時には適切な条件設定が不可欠。 硬化しやすく工具摩耗が激しいため、工具選定と冷却管理が重要になる。- 工具の推奨素材:超硬工具(カーバイド)、TiN/TiAlNコーティング工具
- 推奨加工法:低速高送り、適切なクーラント使用
- 注意点:熱影響による硬化を防ぐため、加工熱の抑制が必要
切削速度の選定
SUS420J2の切削速度は工具材質や加工方法によって異なる。- 超硬工具:20~50 m/min
- 高速度鋼(HSS):5~15 m/min
- CBN工具:60~120 m/min
送り速度と切り込み深さ
適切な送り速度(F)と切り込み深さ(ap)を設定することで、工具寿命を延ばしながら効率的な加工が可能。- 荒加工:送り速度 0.1~0.3 mm/rev、切り込み深さ 1.0~3.0 mm
- 仕上げ加工:送り速度 0.05~0.15 mm/rev、切り込み深さ 0.2~1.0 mm
切削液の選択と使用法
SUS420J2の加工には適切な切削液の選定が必要。- 水溶性クーラント:冷却性に優れ、熱影響を抑える
- 油性クーラント:潤滑性が高く、仕上げ加工に適している
- 合成クーラント:耐摩耗性向上、工具寿命の延長
加工時の注意点
熱処理と硬度
SUS420J2は熱処理によって硬度が大きく変化するマルテンサイト系ステンレス鋼であり、加工前後の硬度管理が重要。- 焼き入れ後の硬度:HRC40~50(加工性が低下)
- 焼きなまし状態:HB200~250(加工性が向上)
チッピングとバリの防止
SUS420J2は高硬度のため、加工時にチッピング(工具の刃こぼれ)やバリの発生が起こりやすい。- チッピングの防止策
- 切削速度を適正範囲に設定し、高速切削を避ける
- 工具の切れ味を維持するため、適切な切削液を使用する
- 切込み量を適度に設定し、無理な負荷をかけない
- バリの防止策
- 送り速度を適正範囲にし、低速すぎる加工を避ける
- 仕上げ時に逆方向から軽くトリミングする(ダブルカット)
- デバリング(バリ取り)工程を追加し、製品精度を向上させる
表面仕上げのコツ
SUS420J2は仕上げ加工によって耐食性や表面の美観が向上する。- 工具選定
- 超硬またはコーティング工具を使用し、仕上げ面の粗さを抑える
- 高精度仕上げが求められる場合、PCD工具やCBN工具を検討
- 加工条件の調整
- 送り速度を低くし、最小限の切り込みで滑らかな表面を実現
- 高速仕上げ加工を避け、一定の速度で安定した加工を行う
- 仕上げ方法
- 研磨仕上げ(バフ研磨、電解研磨)を施し、表面粗さを向上
- 磁気バレル研磨やショットブラスト処理を利用し、均一な仕上げを実現
工具の選択と最適化
ステンレス鋼加工に適した工具の種類
SUS420J2のようなマルテンサイト系ステンレス鋼を加工する際は、耐摩耗性が高く、熱影響を抑えられる工具の選択が重要。- 超硬工具(Cemented Carbide)
- 高硬度のSUS420J2の加工に適しており、耐摩耗性が高い
- 低速~中速切削で安定した性能を発揮
- チッピングを防ぐため、適度な刃先強度が必要
- コーティング工具(TiAlN, AlCrNなど)
- 耐熱性が高く、高速切削に対応
- 摩擦を減らし、切削温度を下げる効果がある
- 仕上げ加工向けに選択されることが多い
- セラミック工具(Ceramic)
- 高速切削で優れた耐摩耗性を発揮
- 低い熱膨張率により、寸法精度が高い加工が可能
- 高速仕上げ加工で使用される
- CBN工具(立方晶窒化ホウ素)
- 超硬工具よりも硬度が高く、耐摩耗性に優れる
- 硬化処理後のSUS420J2加工に最適
- 高価なため、精密加工や大量生産向け
刃先の材質と形状
適切な刃先形状を選ぶことで、加工負荷の軽減や工具寿命の延長が可能。- 刃先の材質
- 超硬合金(WC-Co):耐摩耗性が高く、汎用的に使用可能
- コーティング超硬(TiAlN, TiCN):耐熱性と耐酸化性を向上
- CBN(立方晶窒化ホウ素):高硬度ステンレス鋼の仕上げ加工向け
- 刃先形状
- R形状(ラジアスエッジ):応力集中を防ぎ、長寿命化
- シャープエッジ:仕上げ精度向上に適するが、チッピングしやすい
- ポジティブ刃先:切削抵抗を低減し、スムーズな加工が可能
工具寿命とメンテナンス
適切な工具管理を行うことで、加工精度を維持し、コスト削減につながる。- 工具寿命を延ばす方法
- 適正な切削速度と送り速度を設定し、無理な負荷を避ける
- 切削液を適切に使用し、工具の冷却と潤滑を行う
- 仕上げ加工では、摩耗が進んだ工具を使用せず、新品または研磨済み工具を使用
- メンテナンスのポイント
- 工具の摩耗状態を定期的にチェックし、早めに交換
- 研磨・再研磨を適切に行い、刃先の鋭利さを維持
- 適切な保管方法(防錆・湿度管理)で工具の品質を保つ