SUS420J2の特性解説!切削性と焼き入れ後の加工性について

SUS420J2という素材について詳しく知っていますか?切削性や焼き入れ後の加工性など、この特性について興味を持っている方も多いでしょう。この記事では、SUS420J2の特性について詳しく解説します。切削性や焼き入れ後の加工性、さらには溶接性に至るまで、これから始める方々にとって有益な情報をお届けします。さあ、SUS420J2の特性についてまずは基礎から理解していきましょう。

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目次

SUS420J2の基本情報

SUS420J2は、マルテンサイト系ステンレス鋼に分類される材料で、優れた硬さと耐摩耗性を持ちながらも、一定の耐食性を備えていることから、刃物やバルブ部品、機械部品などに広く用いられています。以下では、SUS420J2の特徴や化学成分、物理的性質、鋼種としての分類・規格について詳しく解説します。

SUS420J2とは:基本的な特徴

SUS420J2は、13クロム系ステンレス鋼に属し、焼入れ処理を行うことで高硬度を得ることが可能な鋼材です。代表的な「刃物用ステンレス」として知られ、包丁、ハサミ、ナイフ、メス、機械部品、精密金型などに使用されます。

焼入れ前は比較的加工しやすい状態ですが、焼入れ・焼戻しによって硬度が大幅に上昇し、耐摩耗性に優れた性質を発揮します。その一方で、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304やSUS316など)に比べると耐食性は劣るため、使用環境には留意が必要です。

化学成分と物理的性質

■ 主な化学成分(JIS G 4303準拠)

  • 炭素(C):0.26〜0.40%
  • クロム(Cr):12.0〜14.0%
  • マンガン(Mn):1.00%以下
  • シリコン(Si):1.00%以下
  • ニッケル(Ni):ほぼ含まれない
  • リン(P):0.040%以下
  • 硫黄(S):0.030%以下

炭素量が高いため、焼入れによる高硬度化が可能です。一方で、ニッケルを含まないため、耐食性はやや限定的になります。

■ 物理的性質(参考値)

  • 密度:7.75 g/cm³
  • 硬度(焼入れ後):HRC 50〜56(使用条件によって調整)
  • 引張強さ:およそ 650 MPa(焼鈍状態)、焼入れ後は大幅に上昇
  • 熱膨張係数:10.4×10⁻⁶ /K(20〜100℃)

※物理的性質は熱処理や加工条件によって変動します。

鋼種としての分類と規格

■ 分類

SUS420J2は、ステンレス鋼の中でもマルテンサイト系に分類されます。マルテンサイト系は、焼入れによる硬化性を有し、高強度・高硬度を求められる部品に適しています。

■ 対応規格

  • JIS規格(日本): JIS G 4303(棒鋼)、JIS G 4304(熱間圧延板)、JIS G 4305(冷間圧延板)
  • ASTM規格(米国): AISI 420、ASTM A276、A240(用途に応じて分類)
  • ISO規格: ISO 683-13(耐摩耗ステンレス系の一部)
  • EN規格(欧州): X30Cr13(1.4028)

これらの国際規格により、用途や流通地域に応じた選定が可能です。


SUS420J2は、その高硬度と加工性のバランスから、精密部品や刃物など多様な分野で活用されています。焼入れや焼戻しなどの熱処理条件を適切に管理することで、性能を最大限に引き出すことが可能です。

SUS420J2の切削性について

SUS420J2はマルテンサイト系ステンレス鋼の一種であり、焼入れ可能な特性から硬度が高くなる一方で、切削性には一定の工夫が求められます。本節では、SUS420J2の切削性の概要、加工時の注意点、旋盤加工におけるポイント、そして類似鋼種であるSUS440Cとの比較について解説します。

切削性の概要

SUS420J2は、焼入れ前であれば比較的加工しやすい鋼材です。しかし、焼入れ処理後は硬度がHRC50〜56程度に達し、耐摩耗性が高まる反面、工具摩耗が激しくなり切削加工の難易度が上がります。

また、加工熱によって硬化(加工硬化)が発生しやすく、熱影響による工具の寿命低下や寸法精度の悪化につながることもあります。そのため、切削条件の最適化と工具選定が非常に重要です。

切削加工におけるポイント

  • 未焼入れ状態での加工が理想
    加工が必要な場合は、焼入れ前に粗加工を済ませることで、工具の寿命延長と作業効率の向上が図れます。
  • 工具材質の選定
    コーティング超硬工具(TiAlNやAlCrNなど)やセラミック工具、CBN工具が有効です。高硬度材に対応した刃先を選ぶことで、摩耗耐性が向上します。
  • 切削条件の設定
    低速・高送りを基本とし、切削油(切削液)を適切に使用することで熱によるトラブルを防止できます。断続切削よりも連続切削が望ましいです。
  • クーラントの活用
    高圧クーラントを併用することで、熱変形とバリの発生を抑制できます。

旋盤加工のコツと注意点

  • ビビりの抑制
    工具剛性を高く保ち、ワークの支持剛性も確保することで、振動による表面粗さの悪化や工具寿命の低下を防ぎます。
  • 適切な切り込み量の設定
    加工硬化を避けるために、浅すぎる切り込みを避け、一定の切削厚を保つことが重要です。
  • 仕上げ加工では低速高精度を意識
    仕上げ面の粗さや寸法精度を確保するため、最後の仕上げ工程では送り速度を落とし、切削油を十分に供給します。

SUS420J2とSUS440Cの比較

特性項目SUS420J2SUS440C
硬度(焼入れ後)HRC 50〜56HRC 58〜60
耐摩耗性高い(標準)非常に高い(刃物用高級鋼)
耐食性中程度(一般環境向き)やや低め(腐食環境には不向き)
加工性(焼入前)良好やや劣る
加工性(焼入後)難しい(工具摩耗あり)非常に難しい(特殊工具が必要)

SUS420J2はSUS440Cに比べて硬度や耐摩耗性はやや劣るものの、加工性とコストのバランスに優れています。特に刃物や一般的な耐摩耗部品にはSUS420J2が多く採用され、SUS440Cは精密機器や高強度部品などのより高性能を求められる用途に使用されます。


SUS420J2を切削加工する際には、熱処理のタイミングと工具・条件の選定が重要な鍵となります。焼入れ後の仕上げ加工には特に慎重な対応が求められますが、適切な手順を踏むことで安定した加工品質が得られます。

焼き入れ処理とその影響

焼き入れ処理の基本

SUS420J2は優れた切削性と焼き入れ後の加工性を持つステンレス鋼です。特に焼き入れを行うことにより硬度が大きく向上し、その結果耐摩耗性にも優れるようになります。SUS420J2の切削性は非常に高く、精密な部品加工に適しているため、工具や機械部品などの製造にしばしば使用されます。加えて、この鋼種は焼き入れ後も適度な加工性を保ちます。これにより、困難とされる高硬度材の加工も容易になるため、メンテナンスや修理の際も効率的に作業を行えるのです。しかしながら、溶接性には多少の制限があるため、溶接を前提とした設計の際には注意が必要です。まとめると、SUS420J2はその優れた切削性と加工性により、多くの産業分野で重宝されており、特定の条件下での使用においてその特性を最大限活かすことができる材料であると言えるでしょう。

焼き入れ後の物性変化

SUS420J2は優れた切削性と焼き入れ性を持つステンレス鋼で、その特性は工業製品の加工品質を大幅に向上させます。この材料は、硬度が高く耐食性に優れ、特に焼き入れ後の加工性が注目されています。焼き入れによって硬度が増すことで、工具や部品としての耐久性が向上しますが、同時に加工が難しくなることもあります。しかし、SUS420J2は焼き入れ後も安定した加工性を維持するため、精密な機械部品や工具製造に適しているとされます。例えば、医療用器具や金型部品に利用されることが多く、その性能の安定性が高く評価されています。溶接性にも優れており、多様な形状に対応可能です。これらの特性から、SUS420J2はさまざまな産業分野で重宝されており、その使用は今後も拡大していくことが予想されます。

加工性への影響

SUS420J2は、その優れた切削性と適度な加工性が特徴のステンレス鋼であります。この素材は、硬さと耐食性を両立させるために、焼き入れ処理によって性能を最大限に引き出すことができます。具体的には、SUS420J2は焼き入れ後も比較的容易に研磨や研削が可能であり、精密な部品加工に適しています。例えば、刃物や医療器具などの製品に多用されており、これらの用途では、切れ味を維持しつつ、強度や耐久性が求められます。また、SUS420J2は適切な熱処理が施されることで溶接性も向上し、幅広い製品の製造に応用されています。再度結論を述べると、SUS420J2は、その優れた切削性と適度な焼き入れ後の加工性により、様々な産業で重宝される材料であることがわかります。

SUS420J2の加工性に関する詳細

SUS420J2は、硬度が高く耐摩耗性に優れた材料であり、特に刃物や精密部品に使用されます。しかし、その加工性には特有の課題が存在します。ここでは、SUS420J2の加工性に影響を与える要因、加工時に直面する技術的課題、および加工性向上のための方法について詳しく説明します。

加工性の要因

SUS420J2の加工性に影響を与える主な要因は以下の通りです。

  • 硬度
    SUS420J2は焼き入れ処理により非常に高い硬度を持つため、金属加工時に切削工具が早く摩耗します。この高硬度が加工性を低下させる主な原因です。
  • 炭素含有量
    SUS420J2は高い炭素含有量を特徴としており、このことが加工中に発生する熱の上昇を引き起こします。加熱により、工具の温度が急上昇し、加工が困難になることがあります。
  • 結晶構造
    SUS420J2はマルテンサイト鋼で、焼き入れ後に硬いマルテンサイト結晶が形成されます。この結晶構造が、金属を脆くし、加工中にひび割れが生じるリスクを高めます。

加工時の技術的課題

SUS420J2の加工時に直面する主な課題は次のようなものです。

  1. 切削工具の摩耗
    高い硬度が原因で、切削工具の摩耗が進みやすいです。特に旋盤やフライス盤での加工時に、工具の寿命が短くなることがあります。
  2. 加工中の熱処理
    SUS420J2は加工中に発生する熱が高くなりやすく、そのため加工精度を保つためには冷却剤の使用が必須です。加熱しすぎると、材料が軟化したり、歪みが生じることがあります。
  3. 割れやひびの発生
    高硬度のマルテンサイト鋼は脆性が高く、急激な温度変化や過度の機械的応力によって、ひび割れや破損が発生することがあります。

加工性向上のための方法

SUS420J2の加工性を向上させるためには、以下の方法が有効です。

精密加工技術の導入
SUS420J2の加工には精密加工技術(例えば、超音波加工やレーザー加工)の導入が有効です。これらの技術は、高精度で硬い材料を加工できるため、より効率的な加工が可能です。

適切な切削条件の設定
切削速度や送り速度を低めに設定し、適切な切削条件を選定することが重要です。過度の圧力をかけず、均等に加工することで、工具の摩耗を最小限に抑えられます。

高性能な切削工具の使用
高硬度なSUS420J2には、超硬合金やCBN(立方晶窒化ホウ素)など、耐摩耗性に優れた工具を使用することを推奨します。これにより、長時間安定した加工が可能になり、工具の交換頻度を減少させることができます。

冷却剤の使用
適切な冷却剤を使用して、加工中の温度上昇を抑えることが重要です。冷却剤は切削工具と金属の接触温度を下げるため、工具の寿命を延ばし、加工精度を向上させます。

焼き入れ後の再加工
SUS420J2は焼き入れ後に非常に硬くなるため、焼き入れ後に研削や焼き戻しを行うことが有効です。これにより、材料の脆性が低下し、加工が容易になります。

SUS420J2の溶接性

SUS420J2は、耐摩耗性と高い硬度を持つマルテンサイト系ステンレス鋼ですが、その溶接性には特有の課題があります。ここでは、SUS420J2の溶接適性、溶接方法の特徴、溶接時の注意点について説明します。

溶接適性について

SUS420J2の溶接適性は一般的に低いとされています。これは、次の要因によるものです。

  • 高い炭素含有量
    SUS420J2は比較的高い炭素含有量を持ち、これが溶接時に溶接部周辺の硬化を引き起こす原因となります。高炭素鋼は、溶接部が脆くなるリスクが高いため、慎重に処理する必要があります。
  • マルテンサイト組織
    焼き入れ後にマルテンサイト組織を持つため、溶接部が冷却される過程で急激な温度変化が生じ、ひび割れや欠けが発生しやすくなります。これにより、溶接後の強度や靭性が低下する可能性があります。
  • 熱影響部の硬化
    溶接時に熱が加わることで、熱影響部(HAZ)の硬化が進みます。この硬化が、溶接部の脆性を引き起こすため、後処理が必要となる場合があります。

溶接方法とその特徴

SUS420J2を溶接する際に使用される代表的な溶接方法には、以下のものがあります。

  • TIG溶接(ガス tungstenアーク溶接)
    TIG溶接は、精密で高品質な溶接が可能な方法で、SUS420J2にも適しています。非消耗性のタングステン電極を使用し、溶接部を十分に冷却しながら溶接を行うため、精密な溶接が求められる場合に有効です。熱の影響を最小限に抑え、ひび割れのリスクを減少させます。
  • MIG溶接(ガス金属アーク溶接)
    MIG溶接は、連続的に溶接金属を供給できるため、生産性が高い方法です。ただし、SUS420J2の高い硬度と炭素含有量により、MIG溶接時には高温で溶接が行われるため、注意が必要です。溶接後のひび割れや残留応力を最小化するために、適切な冷却や後処理が必要です。
  • レーザー溶接
    高精度のレーザー溶接もSUS420J2には適しています。特に薄板の溶接において、熱影響を最小限に抑えることができるため、割れの発生を防ぐのに有効です。高精度な溶接が求められる部品において、特に効果的です。

溶接時の注意点

SUS420J2の溶接にはいくつかの重要な注意点があります。これらを踏まえて作業を行うことが、品質の良い溶接を実現するために不可欠です。

適切な溶接技術の選択
ひび割れや欠けのリスクを最小化するために、溶接技術を選択する際には、経験豊富な技術者による判断が重要です。溶接条件(電流、電圧、速度)を調整し、適切な溶接法を使用することで、品質の高い溶接が実現できます。

適切な前処理
溶接前に、溶接部の表面を十分に清掃し、油分や汚れを取り除くことが重要です。これにより、溶接時に不純物が溶接部に混入するのを防ぎます。

適切な溶接材料の選定
SUS420J2と同じくマルテンサイト系のステンレス鋼を使用した溶接材料(ワイヤーやロッド)を選定することが重要です。これにより、溶接後の強度や耐食性が保たれます。

適切な冷却
SUS420J2の溶接後には、冷却速度に注意が必要です。急速な冷却を避け、冷却速度をコントロールすることで、溶接部の脆性を減少させ、ひび割れや変形を防ぐことができます。

後処理(焼き戻し)
溶接後、焼き戻し処理を行うことで、熱影響部(HAZ)の硬化を防ぎ、脆性を低下させることができます。焼き戻しは、溶接部の靭性を向上させるために重要な工程です。

SUS420J2の応用と適用分野

SUS420J2は、その高い硬度と耐摩耗性から、さまざまな分野で利用されています。特に耐摩耗性や高い強度が求められる部品に適しています。ここでは、SUS420J2の主な用途と適用例、選択時の考慮事項と注意点について詳しく説明します。

主な用途と適用例

SUS420J2は、以下のような用途で広く使用されています。

  • 刃物類
    SUS420J2は、鋭利な刃先と耐摩耗性を持つため、ナイフやカミソリの刃物、剪定用ハサミ、工具の刃などに適しています。特に、硬度が重要な刃物や精密切削工具の素材として利用されています。
  • 精密部品
    精密機器や測定機器の部品にも使用されます。高い強度と耐久性を必要とする部品(例えば、ギアやベアリング)において、SUS420J2は適切な材料です。
  • 医療機器
    高い強度と耐腐食性が求められる医療機器にも、SUS420J2が使用されることがあります。特に、外科用メスや手術器具などに利用されることが多いです。
  • 機械部品
    耐摩耗性と耐久性が必要な機械部品(例:ローラー、バルブ、ピン、軸受けなど)にも使用され、長寿命を提供します。
  • 装飾部品
    SUS420J2は美しい外観を保つため、ジュエリーや高級時計の部品としても使用されます。優れた硬度と耐摩耗性により、これらの製品に適しています。

選択時の考慮事項と注意点

SUS420J2を選定する際には、以下の点を考慮することが重要です。

熱処理の影響
SUS420J2は熱処理後の硬化が進むため、加工後に適切な焼き戻し処理を行う必要があります。これにより、脆性を低減し、製品の靭性を向上させることができます。溶接や熱処理を行う際には、材料の特性を十分に理解し、適切な処理を施すことが求められます。

硬度と耐摩耗性のバランス
SUS420J2は高硬度ですが、脆性が増す可能性があります。特に、使用環境が過酷であったり、高い耐摩耗性を必要とする場合に適していますが、衝撃を受けやすい環境では別の素材を選ぶことを検討する必要があります。

加工性の難易度
SUS420J2は硬度が高いため、加工時には特別な注意が必要です。溶接性が低いため、製造工程における加工方法を選ぶ際には、経験豊富な技術者による判断が求められます。特に、切削工具の摩耗が早く進むため、長時間の加工が必要な場合は高性能な工具の使用を推奨します。

腐食環境への耐性
SUS420J2は耐腐食性が優れているものの、酸性や塩水環境など極端な条件下では、他のステンレス鋼材料に比べて劣ることがあります。使用環境に応じて、耐食性を重視する場合は、他のステンレス鋼材を選定することが必要です。

コスト
SUS420J2は高硬度で耐摩耗性に優れた素材であるため、コストが高めです。特に、精密部品や刃物類に使用される場合、コスト対効果を考慮して選択することが重要です。

まとめ

SUS420J2は高い切削性を持ち、また焼入れ処理後の加工性も優れています。溶接性にも優れており、様々な工業製品に幅広く使用されています。その特性を活かして、様々な産業で利用されています。

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