目次
1: SUS403の耐食性能とは
1-1: SUS403とSUS304の違い
- 組成の違い
SUS403はクロムを主成分とするマルテンサイト系ステンレス鋼で、SUS304のようなニッケルを含まない。SUS304はオーステナイト系であり、耐食性に優れるが、SUS403は機械的強度に優れる。 - 特性の違い
SUS403は熱処理による硬化が可能で、切削加工性に優れるが、SUS304と比べると耐食性は劣る。
1-2: SUS403の基本特性
- 機械的強度が高い
- 耐熱性あり(600℃程度まで)
- 磁性を持つ
- 焼き入れにより硬度向上が可能
- 一方で、腐食環境には不向きなケースがあるため、使用環境に注意が必要。
1-3: マルテンサイト系ステンレスの特性
- 強度重視の設計に向く。
- 熱処理による硬化が前提の構造用材や機械部品に多用。
- 磁性を持つため、磁気特性が求められる分野にも適用。
1-4: 耐食性の重要性
- 寿命や信頼性に直結する性能。
- 加工・使用条件により腐食の進行が大きく異なるため、適材適所の判断が不可欠。
- 特に表面処理や設計段階の工夫がSUS403では重要となる。
2: 環境条件とSUS403の耐食性
2-1: 海水環境における耐食性
- SUS403は塩分に弱いため、海水環境下では点腐食やすき間腐食のリスクが高い。
- 海沿いや海中での使用にはモリブデン添加系のSUS316系材などの方が適している。
2-2: 酸性・アルカリ性環境への耐性
- 酸性環境では酸化還元反応により腐食が進行しやすい。
- アルカリ環境でも長時間暴露で腐食の恐れあり。
- SUS403は軽度の腐食環境下での短期使用を前提とした設計が推奨される。
2-3: 温度が耐食性に与える影響
- 高温下での酸化皮膜形成が腐食を抑制する場合もあるが、応力腐食割れのリスクが上昇。
- 熱間使用環境では耐熱鋼との比較が必要。
2-4: 耐久性と使用条件
- 使用温度、湿度、化学物質の存在有無によって耐久性は大きく変動。
- 防錆処理(表面研磨、コーティング等)により耐用年数を延ばせる。
- 定期的なメンテナンスも耐久性維持の重要ポイント。
3: SUS403の熱処理と耐食性
3-1: 焼入れ焼き戻しによる強度向上
- 焼入れ(950〜1000℃)→急冷により硬化。
- 焼き戻し(200〜500℃)により靭性と耐食性のバランスを調整可能。
3-2: 熱処理が耐食性に及ぼす影響
- 焼入れ直後の鋼は硬度は高いが、残留応力や組織の不均一性により耐食性が低下。
- 焼き戻しにより残留応力が緩和され、腐食への抵抗性がわずかに改善される。
3-3: 調質とその効果
- 焼入れ→焼き戻しという調質処理により組織を安定化。
- 表面の酸化スケール除去もあわせて実施することで、耐食性と外観の向上が可能。
3-4: 加工方法の選択と耐食性
- 切削加工後はバリや酸化スケールの除去が重要。
- 溶接後には熱影響部での耐食性低下が起こりやすく、後処理(酸洗いやパッシベーション)が有効。
- 研磨・電解研磨などにより表面平滑性を高めると腐食抑制に寄与。
SUS403はその強度や加工性から多くの工業用途で用いられますが、耐食性に関しては適切な熱処理と表面処理の併用が鍵となります。
4: SUS403の物理的特性と耐熱性
4-1: 強度と硬度の関連性
- 強度(引張強さ)と硬度(耐摩耗性)は、材料の構造と熱処理によって相関。
- SUS403は焼入れによって引張強度600MPa以上、硬度HRC40程度まで向上可能。
- 硬度が高まると靭性は低下するため、用途に応じた焼き戻しが必要。
4-2: 耐熱鋼としての特性
- SUS403は600℃前後までの耐熱性を持つが、高温下での酸化や応力腐食には注意が必要。
- 長時間の高温環境では、組織変化(粒成長・焼きなまし状態)が起き、強度が低下する場合がある。
- 耐熱性と酸化スケールの抑制には、酸化皮膜や表面処理の適用が効果的。
4-3: マルテンサイト系の機械的性質
- 一般に高強度・高硬度だが、靭性・延性はオーステナイト系に劣る。
- SUS403は特に引張強さ・耐摩耗性に優れ、切削性も良好。
- 使用温度帯と荷重条件に応じた、適切な熱処理プロファイルが求められる。
4-4: 性能の向上方法
- 焼入れ・焼き戻しによる強度調整
- 表面処理(研磨・窒化・ショットピーニング)による疲労強度や耐食性の改善
- 適正な加工順序の設定と応力除去焼なましにより割れや歪みを抑制
- 必要に応じて他のマルテンサイト鋼(SUS410, SUS420J2等)との比較・選定も重要
5: SUS403の実用化とその用途
5-1: 食品産業における使用
- 食品機械部品(ミキサー刃、カッター、スライサーなど)に使用される。
- 磁性があるため、金属検出機との相性が良い。
- 高強度と加工性が求められる一方で、塩分や酸への曝露にはコーティング処理が必要。
5-2: 工業用部品としての適用
- ポンプシャフト、バルブ部品、工具、ボルト・ナット類など、強度と耐摩耗性が必要な部位に使用。
- 構造部品としての機械的信頼性が高いため、航空・輸送・建機分野でも用いられる。
- 焼入れ後の硬度や摩耗特性を活かした高負荷部材に最適。
5-3: 必要となる性能のバランス
- 強度・加工性・耐食性のバランスが設計において重要。
- 食品機器や医療機器では、表面処理や耐食コーティングによる補強が前提条件。
- 熱処理の条件を調整することで、要求仕様に応じた機械的性質の調整が可能。
5-4: SUS403の評価と選択基準
- 以下の要素で選定されることが多い:
- コスト対強度比の良さ
- 磁性の有無(検出や制御用途)
- 熱処理による機能調整性
- 使用環境下での腐食性に対する配慮
- 耐食性が優先される場合には、SUS304やSUS316との比較検討が必要。
SUS403は、その特性から高強度部材や食品機器など多岐にわたる用途で活躍します。選定にあたっては、使用条件に応じた耐食処理や熱処理の最適化が不可欠です。